SS400材はJIS鋼材規格にて定められている鉄鋼材の1つで、構造材などに最も使用されている鉄鋼材です。これからSS材を加工して製品を製作しようとする方向けに、強度、硬度、耐食性、価格などの特徴を基礎から解説しますので、製品づくりに役立ててください。
- この豆知識の目次
- SS400とは
- SS400の機械的性質
- 引張強度
- 硬度
- 耐摩耗性
- 弾性
- 靭性(じん性)・脆性(ぜい性)
- SS400の化学的性質
- 比重・重さ
- 耐食性・錆びにくさ
- 熱伝導率
- SS400の加工性
- 切削・研削
- 溶接
- 熱処理加工
- 表面加工
- SS400の用途
- SS400の価格
- SS400材の形状
- SS400のまとめ
- 金属加工のご依頼について
SS400とは
鉄材の種類は、炭素やその他の添加元素の含有量によって、JIS規格で定義されています。その中でも、SS材は、「一般構造用圧延鋼材(Steel Structure)」と呼ばれ、ビルや工場などの構造材に多く使用されています。主な用途が建築物の躯体であり、引張強度が重視されていることから、SS材の種類によって引張強度の最小保障値が定められています。
<図1-鉄の種類とSS400>
SS400は、引張強さが400~510N/mm2であるため、下限値の400で表されています。成分の規定はリンと硫黄の上限が0.05%以下ということしか定められておらず、炭素の量には規定がありません。
C | Si | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
– | – | – | ≦0.05 | ≦0.05 |
<表1 SS400の成分規格>
炭素の含有量が、0.3%未満の炭素鋼を「低炭素鋼」、0.3~0.5%を「中炭素鋼」、0.5%以上のものを「高炭素鋼」と呼び、一般的に炭素の含有量が多いほど強度が高くなります。SS400は0.15%~0.2%程度の場合が多くなっていますので、低炭素鋼に分類されます。しかしJIS規格では、炭素の含有量の保障はなく、「必要に応じてこの表以外の合金元素を添加しても良い」ともされていますので、信頼性が必要な用途には注意が必要です。
SS400の機械的性質
金属加工を行う上で、また製品として使用する上で、引張強度、硬度、弾性などの機械的性質はとても重要です。SS400材の機械的性質について解説します。
引張強度
SS400の引張強度は、400~510N/mm2であり、前述した通りJIS規格で下限値が400として表され、低炭素鋼に分類されます。そのため引張強度を他の鉄鋼材と比較すると低いように見えますが、鉄鋼自体が他の金属と比較して引張強度の高い素材であるため、強さが必要な土木構造物にも使用されています。より高い強度が求められる用途には、中炭素鋼や、高炭素鋼が使用されます。
金属の種類 | 金属の記号 | 引張強さ[Mpa][N/mm2] |
---|---|---|
純鉄 | – | 196 |
一般構造用圧延鋼材(SS) | SS330 | 330~400 |
SS400 | 400~510 | |
SS490 | 490~610 | |
機械構造用炭素鋼材(SXXC) | S10C | ≧310 |
S30C | ≧540 | |
S60C | ≧740 | |
クロムモリブデン鋼(SCM) | SCM415 | ≧830 |
SCM430 | ≧830 | |
SCM822 | ≧1030 | |
ステンレス(オーステナイト系) | SUS304 | ≧520 |
ステンレス(オーステナイト・フェライト系) | SUS329J1 | ≧590 |
ステンレス(フェライト系) | SUS430 | ≧420 |
ステンレス(マルテンサイト系) | SUS403 | ≧440 |
純アルミニウム | A1085 | 55 |
5000系 -Al-Mg系合金-(汎用アルミ) | A5052 | 260 |
2000系 -Al-Cu-Mg系合金-(ジュラルミン) | A2017 | 355 |
2000系 -Al-Cu-Mg系合金- | A2024(超ジュラルミン) | 430 |
7000系-Al-Zn-Mg系合金-(超々ジュラルミン) | A7075 | 573 |
<表2 鉄・ステンレス・アルミの引張強度一覧>
硬度
SS400の硬度には規定がありませんが、一般的にブリネル硬さ(HBW)で120~140前後とされており、鉄鋼材の中では軟らかいといえます。鉄鋼材の硬さも、引張強度と同様に炭素の含有量が多いほど高くなります。SS400の場合は、炭素の含有量が明確に規定されておらず、一般的に低炭素鋼となりますので、硬度が求められる摺動部の部品や工具などには向いていません。
炭素量が少ないため、焼き入れなどの熱処理をして、製品を硬くすることも難しい素材です。
金属の種類 | 金属の記号 | 硬度(ブリネル硬さ:HBW換算) |
---|---|---|
純鉄 | – | 105 |
一般構造用圧延鋼材(SS材) | SS400 | 約120~140 |
機械構造用炭素鋼材(SXXC) | S10C | 109~156 |
S20C | 114~153 | |
S30C(焼きなまし) | 126~156 | |
S30C(焼入れ焼き戻し) | 152~212 | |
S40C(焼きなまし) | 131~163 | |
S40C(焼入れ焼き戻し) | 179~255 | |
クロムモリブデン鋼(SCM) | SCM415 | 235~321 |
SCM420 | 262~352 | |
SCM430 | ≧241~302 | |
ステンレス(オーステナイト系) | SUS301 | ≦207 |
SUS304 | ≦187 | |
ステンレス(オーステナイト・フェライト系) | SUS329J1 | ≦277 |
ステンレス(フェライト系) | SUS430 | ≦183 |
ステンレス(マルテンサイト系) | SUS403 | ≦201 |
純アルミニウム | A1085 | 20 |
5000系 -Al-Mg系合金- | A5052(汎用アルミ/加工硬化 H38) | 77 |
2000系 -Al-Cu-Mg系合金- | A2017(ジュラルミン/焼きなまし O) | 45 |
2000系 -Al-Cu-Mg系合金- | A2024(超ジュラルミン/自然時効 T4) | 120 | 7000系-Al-Zn-Mg系合金- | A7075(超々ジュラルミン/人口時効硬化 T6) | 150 |
<表3 鉄鋼材・アルミの硬度一覧>
耐摩耗性
耐摩耗性は、摩擦・研磨による表面の減少を防ぐ度合いを表すものですので、硬度と密接に関係しています。そのためSS400は、耐摩耗性も高いとはいえないため、傷がつきやすい、削られやすいという特徴があります。その特性を生かして切削加工・研磨加工には向いていますので、自由に目的の形状を得やすくなったり、表面を削ることが容易にできます。
弾性
弾性の指標は、ヤング率(ヤング係数)にて表されます。SS400のヤング率は、206E/GPa(=2.06×105N/mm2)でアルミや銅と比較して高い弾性があります。ヤング率は鉄鋼材の種類によってほとんど変わらないので、外部から力を加えたときの変形のしにくさは、強度などとは異なり各元素の含有量にはほとんど左右されないといえます。
金属の種類 | ヤング率(E/GPa) | ずれ弾性率(G/GPa) |
---|---|---|
純鉄 | 205 | 81 |
SS400(一般構造用圧延鋼材) | 206 | 79 |
S45C(機械構造用圧延鋼材・焼入れ焼き戻し) | 205 | 82 |
SNCM439(ニッケルクロムモリブデン鋼・焼入れ焼き戻し) | 204 | – |
SKD6(合金工具鋼・SKD6) | 206 | 82 |
SUS410(マルテンサイト系ステンレス・焼入れ焼き戻し) | 200 | – |
SUS430(フェライト系ステンレス・焼き鈍し) | 200 | – |
SUS304(オーステナイト系ステンレス・固溶化処理) | 197 | 74 |
銅 | 129.8 | 48.3 |
A2017(ジュラルミン) | 69 | – |
A2024P(超ジュラルミン) | 74 | 29 |
A7075P(超々ジュラルミン) | 72 | 28 |
<表4 金属素材のヤング率>
靭性(じん性)・脆性(ぜい性)
一般的に靭性は、炭素の含有量が高いほど失われます。つまり強度や硬度が高い鋼材ほど、脆く壊れやすいという特徴があります。S400は低炭素鋼であるため、比較的ねばり強くしなやかで壊れにくい素材であるといえます。
SS400の化学的性質
金属素材の化学的性質は、錆びやすいか、電気を通しやすいかなど、製品として使用する上で重要な特性です。SS400の化学的性質をご紹介します。
比重・重さ
SS400の比重は、7.85ですので、1cm3辺りの重さが7.85gとなります。鉄鋼の種類によって添加されている元素の割合が異なるため比重がそれぞれ違いますが、ほとんどの部分は鉄元素であるため、S45Cであっても、ステンレス系の素材であっても大きくは変化しません。
金属の種類 | 金属の記号 | 比重 |
---|---|---|
純鉄 | – | 7.87 |
一般構造用圧延鋼材(SS) | SS400 | 7.85 |
機械構造用炭素鋼材(SXXC) | S10C | 7.86 |
クロムモリブデン鋼 | SCM415 | 7.85 |
ステンレス(オーステナイト系) | SUS301 | 7.93 |
SUS304 | 7.93 | ステンレス(フェライト系) | SUS430 | 7.7 |
ステンレス(マルテンサイト系) | SUS403 | 7.75 |
純アルミニウム | A1085 | 2.70 |
5000系 -Al-Mg系合金-(汎用アルミ) | A5052 | 2.68 |
2000系 -Al-Cu-Mg系合金-(ジュラルミン) | A2017 | 2.79 |
2000系 -Al-Cu-Mg系合金- | A2024(超ジュラルミン) | 2.78 |
7000系-Al-Zn-Mg系合金-(超々ジュラルミン) | A7075 | 2.80 |
<表5 金属素材の比重>
耐食性・錆びにくさ
鉄はもともと耐食性が低く、空気中の酸素と結びつき簡単に錆びてしまいます。SS400は、サビに強いクロムやニッケルなどの元素を添加しておらず、そのままでは錆びやすい製品となりますので、後述する塗装やメッキなどの表面処理を行って使用されることが多い素材です。
熱伝導率
SS400の熱伝導率は51.6W/m・Kで、純鉄よりも熱を少し通しにくくなっています。またアルミや銅などと比較すると熱を通しにくいので、すぐに温めたり冷やしたりする用途には向いていません。
金属の種類 | 熱伝導率[W/mk] |
---|---|
銀 | 425 |
銅 | 397 |
金 | 316 |
アルミニウム | 238 |
鉄 | 78 |
SS400 | 51.6 |
ステンレス(SUS403) | 16 |
ステンレス(SUS405) | 27 | ステンレス(SUS430) | 26 |
<表6 金属素材の熱伝導率>
SS400の加工性
SS400は加工性にも優れている素材ですので、幅広い製品に加工されています。その中でもSS400の得意な加工、苦手な加工がありますので、製品に合わせて選択してください。
切削・研削
硬度で前述した通り、SS400は鉄鋼材の中で比較的軟らかいので、アルミニウムほどではありませんが、削りやすく切削加工や研削加工がしやすい素材です。切削の中でも、フライス盤加工ではSS400の方が切削性が良く、旋盤加工ではS45Cの方が切削性が良く工数が削減できるなど、切削加工の種類によっても適正な素材は異なります。
溶接
溶接性は良好で、板厚が50mmを超えない場合、高い負荷や圧力がかからない用途の場合は、問題なく溶接が可能ですが、化学成分が規定されていないため、溶接性の保証はありません。50mmより厚がある場合は、溶接に関する成分が規定されている溶接構造用圧延鋼材(SM材)が使用されます。
熱処理加工
SS材は全般的に表面の状態がそのままでも良好で、表面を加工すると内部応力が開放されてそりが発生する可能性もありますので、熱処理加工は施さず使用されます。炭素の含有量が少ないため、焼入れなどの熱処理によって硬度を上げることも不可能となります。
表面加工
SS400はそのままでは、錆びに弱い素材ですので、表面処理によって表面を覆う必要があります。SS400に耐食性向上の目的でよく施されている加工は、黒染め、亜鉛メッキ、ニッケルメッキ、クロムメッキです。
SS400の用途
SS400は、橋梁や、船舶、車両、その他構造物に広く使用されています。コストパフォーマンスが良いため、構造材だけではなく機械設備などでも、多くの分野でもちいられています。身の回りにある避難用のらせん階段や、すべり台などにもSS400材でできているものが多くあります。
一般的な構造用に使用する場合の強度には問題ありませんが、耐摩耗性が低いため、回転して擦れる部分に使用するシャフトや、衝撃が加わる部品、金型などには向いていません。
SS400の価格
SS400は、流通量が多く単価が安いため幅広い製品に利用されています。キロ単価は100円前後で、材料費を抑えたい場合にはまずSS400が検討されています。
SS400材の形状
SS材の形状は板材、棒材ともに種類が豊富で入手しやすくなっており、それぞれの用途に合わせて断面の形状を選ぶことができます。
平鋼(フラットバー)だけでも、幅と厚みで様々なサイズ展開があり、よくブラケットやプレートで使用されています。
構造材として使用される部材には、曲げに強く柱・梁・基礎杭などの建築現場で利用される「H形鋼」、二次部材となる「T形鋼」、H形鋼より耐荷重性を増し、クレーンの走行レールなどに使用される「I形鋼(アイビーム・ジョイスト・ジョストン)」などがあります。その他にも、L字型断面で耐震補強やDIYで使用される「等辺山形鋼(等辺アングル)」「不等辺山形鋼(不等辺アングル)」、U字型断面の「溝形鋼(チャンネル)」などがあり、形鋼としても流通しています。
SS400のまとめ
SS400は、一般構造用圧延鋼材とも呼ばれて、橋梁や、船舶、車両などの構造物に広く使用されている鉄鋼材です。幅広く利用されている理由としては、流通量が多いため単価が安く手に入れやすいためです。鉄鋼材の中では、低炭素鋼に分類されて強度や硬度が高い方ではありませんが、構造物としては十分使用できます。反対に削りやすいので切削や研磨などの加工性が高く、溶接も難しい条件でなければ問題なく加工できます。
金属加工のご依頼について
メタルGOでは、鉄材(スチール材)のほか、ステンレス・アルミなども1点からオーダーメイド品の注文を承っております。切削・曲げ・溶接などの成形からメッキ・塗装に至る表面処理加工まで一貫して承っておりますので、お気軽にお問い合わせフォームからお問い合わせください。